悪魔(とケツアゴ)に魂を売り渡し、奇跡の傑作は誕生した。-『ダークナイト』

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【とくにネタバレ配慮はしていませんので、ご留意を。】
なんなんでしょう、この映画は。
この映画を鑑賞して五分で浮かんだ「やー えらいケツアゴの人が居るね」という感想が、終わる頃にはもうなんか恥ずかしくて使えなくなってしまうほどの大傑作です。
すまんデント君ケツアゴばっか見て面白がっててすまん。そして映画を見終わって思えば彼のアゴが割れぎみだったのもその後の運命を暗示する悪魔のもたらした必然だったのでしょうとか思ったり。なんじゃそりゃ。


演技がやっぱすごいなと感じて、中でもジョーカーに魂を売り渡してお亡くなりになってしまったヒース・レジャー。彼の演技の鬼神ぶりについてはまあ皆さんも言ってらっしゃいますから、言うまでもないですね。
僕は(人に見せられないレベルなので一人でこっそりですが)俳優や声優の動きを模写したりするのが趣味だったりするんです。だけど、ヒース・レジャーのジョーカーだけは真似が出来ない。出来ないと思った。動きまで含めた存在感そのものが、唯一無二の「ヒース・レジャーのジョーカー」なんです。我々は本当に得難い名優を失ってしまったんだなあ……。彼の逝去が本当に口惜しくてならない。
モーガン・フリーマンだったり、ゲイリー・オールドマンなんかも脇で本当にいい演技をしてます。というか僕にとってゲイリー・オールドマンは完全にレオンのイッちゃってる刑事のイメージがついてたので、あの刑事がいつフリスクみたいの飲み出すかとハラハラしてしまった。


テーマについては正直、題材自体は別に目新しいものではないと思います。ジャパニメーションなんかでは随分早くから「正義の味方」の欺瞞性について取り上げたものとか多かったし。最近のハリウッド映画でも、『スパイダーマン』なんかもちょっと触れてたしね。だから、それだけにこの作品が結末でどういう決着を見せるのかに、相当注目しながら観てました。
結果は……んー、結局殺せない、のかという。結局、理屈のないルールに則ってしまった感じが、残念でないこともないでしたが、それは、ジョーカーの言う「お前も狂人なんだ」という台詞に集約されてしまうんだろうなあ。狂人、ていうかあの世界みんな狂ってるじゃないか。便利な言葉だよなあ。
それにしても「ルールを壊せ」という囁きのなんと蠱惑的なことよ。「そちら側」のメンタリティに魅了される人間としては、どうしてもジョーカー様に肩入れせざるを得なくなってしまう。


あと、2時間半ある映画な訳ですが、長さを一切感じさせないです。ていうか、もっと見たい、見続けていたいと思える映画って、久しぶりです。何がそんな惹き付けるかって、爆薬の派手さもそうなんだろうけど、金持ちの無駄遣い武器・車・健康器具たちね。ああいうびっくりドッキリメカに心惹かれる男の子としては、そりゃあ退屈するはずがない。
ほんとに、無駄に中二病患者に金があるとろくなことしないな。「帰りは?」「チケットを買ってください」「上空の飛行機に飛び乗る方法を考えれっつーの」あたりは笑った。いや、それは色々危ないんだからとりあえず脱出するのを優先してから飛行機で帰ってきても別にいいじゃないですか(笑) まあロマンだね。終盤の3Dレーダーとかもね。たまらんね。


ただね、うん、素晴らしい映画なんだけど、大衆に受けない(というか『バットマン』という下地の一切ない日本では受けない)っていうのはなんとなく……解らなくも……ないかな……。ヒットしてほしいのは本音ですが。
暗い、グロイ、長いとまあ一般人には敬遠されそうな要素はたっぷり詰まってる上に、主流の映画客向けではないという。
カップルとかが観に行ったら、その後一体何の話をするんだろう。「じゃあコーラとファンタグレープを買ってくるけど、どっちかにイソジンを大量に混ぜておくね、どっちを選ぶ?」とか遊ぶのだろうか。
お子様連れなんかで観に行った日にはどうなる。作中にある手品が出てくるのだけど、真似したお子様が鉛筆を誤飲するどころじゃない悲惨な事故が発生することうけあいです。


しかし、そういうのを抜きにして、全ての映画ファン、深いお話を求める人、派手なアクションが観たい人、役者の怪演が見たい人など様々なニーズに応え、満足させる傑作がここにあります。あ、前作やバットマンを知らなくても大丈夫そうですよ。とにかく皆さんオヌヌメですので是非観てくださいな。
これが「ポニョ」と同時期に公開されてるってのもなんか面白い感じがするなあ。どっちも二度三度観たいモンスター映画なんですけどね。


あともう一つだけ思ったのは、あの二枚舌ビッチ女どうにかならんのかね。