ようやく消化できた気がする『ウォッチメン』についての感想

http://www.watchmenmovie.co.uk/intl/jp/
現在公開中の映画に『ウォッチメン』という大作アメコミを映画化した話題作がありまして、僕も公開早々に観に行ったんですが、観た直後、どうも感想に書き辛いモヤモヤを抱え込んでしまったので放置してたのですが、先日アメコミの原作を読む機会があり、ようやくあの作品の一部を消化できた気がするので公開終了間際の今更になって色々書いてみます。(後半からネタバレあり)


まずネタバレなしで紹介文。


ウォッチメン』は架空の「街」ではなく、架空の「歴史」を舞台とした、ジャンル分けしづらいのですがミステリーサスペンス?です。
ヒーローが存在する世界で一人のヒーローが殺され、その謎を巡って展開する物語、とでも言えばいいでしょうか。
舞台設定は、1985年のアメリカ。1985年と言えば、米ソ間の冷戦状態が最緊張した年であり、核戦争秒読み、世界終末時計が3分前という状況下です。
これは、原作が描かれた時期が1986年であるためで、「リアルタイムで進行しつつある世界情勢(しかもヤバい方に)を作品にしてしまった」ことを鑑みるとメチャクチャ凄いのですが、現代の我々は、あの冷戦が無事に全面戦争に至ることなく解決した「正史」を知っていますから、そこに「スーパーヒーロー」という異物を落とした場合、その波紋がパラレル世界にどういう風に広がっていくのかを楽しむミステリー風サスペンス映画として、最後まで鑑賞すれば良いと思います。
ただ、エロとグロがやや過剰に含まれているので、万人にお勧めはしない。いくつか本気で笑わせようとしてるのかわからないけど笑わざるを得ないシーンがある。情報量が多い上に長いので疲れるかもしれない。それらの点を踏まえても、かなりの力作になっているので、観る価値はあると思います。たぶんおっぱいバレーの十倍くらい観る価値あるよ。ごめんおっぱいバレーを未見で言うけど。
あとロールシャッハさんかっけえ。マジかっけえ。


ネタバレなし紹介終わり。
では、以下、作品(映画+原作)の核心に触れる感想を書いておくので、未見の方ご注意を。



<ラストについて>
僕が最初に映画版を観て、まず納得がいかなかったのは、ラストの展開です。
Dr.マンハッタンの扱い!
ダークナイトが、感動するのは、「意識的な自己犠牲」としてバットマンがあの道を選んだからなのです。
それがこちらは、悪役がDr.マンハッタンの力を勝手に利用しておいて、なおかつ全世界の仇敵にするって。僕が最初に感じてしまったのはまるっきりいじめの構図でしたね。
それまでにも女に愛想を尽かされ癌の病原体呼ばわりされテレビで全世界に吊し上げられたDr.マンハッタンにまだ酷いことするか! と怒り心頭でした。
Dr.マンハッタン! 言ってやれ!
「裸になって何が悪い」!(別にそのことで吊し上げられたんじゃない)
ていうか本人も「共感できないが理解はできる」じゃないよ。そこはキレていいよ。
そして、真の腑に落ちなかった問題はそこではありません。
その統治が、「暴力」によってなされた統治だったと言うことです。
僕の持論では、「暴力による平和はいずれ暴力で打倒される」ものです。暴力は連鎖するものだと思っています。そういう彼の平和観にどうも共感しかねたことが一つ。
そして、ここからは僕の話になります。
僕も、そういう地球外生命体による恐怖で世界が一つになれないかねえ、ということを考えたことはあります。(というか、割とありがちな思考回路だと思うのですが)
その疑問を、大学時代、政治学の教授に尋ねてみたことがあります。その答えが。
「世界が一つになるというのは何も良いことばかりじゃないんだ。権力が一つに集中してしまうということだからね。それは危険だ。分割された世界がいくつかの力によって均衡を保つ世界の方が望ましいと私は思う」と。
この意見にそれなりに納得した僕は、それ以来、この考えを捨てました。そんな過去がありつつ、また反駁してしまったわけですが。
原作を読んで、その辺がきちんと描かれていたので、そんなモヤモヤがスッキリしたのです。


原作を読むと、映画がほぼ忠実に作られたものだということが解りました。というかラストを除いて、こりゃ確かに映画の方が超えてるかも、と思う点も多々。
ただ、原作のラストはあらゆる点で、僕の気に入るものでした。


原作の最終回。まず、延々数ページにも渡り、見開きで「世界の終末」が圧倒的な迫力で描かれます。
血の海の中、絶望的な表情で事切れる夥しい数の群衆。あるいは逃げまどい、あるいは諦念し、あるいは訳も分からず。
これです。このカタルシスが欲しかったんです。映画は、世界同時中継でモニター室から爆発を眺めるだけ。そこに起きた事実や、下界の出来事を全く描ききっていない。というか「クライマックス」がない。
そして満を持して登場する、あのイカ(笑)
あの血みどろの死体の上に君臨する巨大イカ状生物というアホな光景は、艱難を排してでも映像化していただきたかった。あの場面こそが僕の愛してやまないカタルシスであり世界観です。題して「破滅とアホ」です。陰惨さと無邪気さの同居。
そしてアホはただのアホではなかった。
「全世界から集められた一流の美術家、ストーリーテラーといった芸術家たちが『恐怖』のイメージを形にしたものがあのイカで、その作品を見た時に受けるパルスを超能力で増幅させて世界にバラ捲く」
なんだ、このオチwww
ていうか、これこそ最高のオチだろう!!!!
誰も想像付かねえよ! これこそが21世紀に持ってくるべきオチだよ!


そして、僕も芸術を志向する人間の端くれとして、「どんな暴力よりも芸術の方が強く人々の心に何かを訴えかける」っていう主張にしてくれたことが嬉しかったのです。
もちろん原作では、「最後に僕が正しかったんだ」というオズマンティアスに、「何事にも最後などありはしない」と、その行為を否定してくれることも忘れなかったので、完璧でした。


結論として、『ウォッチメン』の原作は最高です。ただ、難解な原作への入りやすい導入として、映画から入るというのは凄く良い道な気がします。なので、映画を観た人には是非原作も読んでほしいな、ということですね。


WATCHMEN ウォッチメン(ケース付) (SHO-PRO BOOKS)
おすすめ度の平均: 4.5
5 歴史に遺る作品
4 重版されたのに、なかなか入手できませんでした…
5 素晴らしい・・・
5 定価3570円
4 これは小説


とはいえ、映画もDVD版ではシーン追加されるようなので、それ期待して買っちゃおうとは思っています。
いや、ほんとこの原作を映像化し、なおかつ重版させたというだけで観る価値ある作品ですよ。そして今更消化できて良かった。<ウォッチメン関連リンク>
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