虚航船団/筒井康隆

虚航船団

虚航船団

id:nitinoさんに影響されて、筒井康隆さんの『虚航船団』を読みました。
想像以上に読むのに時間掛かった。
面白かったんですけどね! 文章の濃さが半端無いので咀嚼するのに相当なパワーが要ったという。特に2章。2章はある惑星の歴史が極力主観を排除した描写で淡々と綴られるのですが、一千年の歴史を150ページに纏めてるだけあって、ちょっと本を読み慣れてない人にはきついかもしれない。固有名詞とか覚えてられない。て、てかこれ教科書やー!
最初のうちは「ぬう、ドグマグも黒死館も読破したおれに挑戦するとはおぬしやるな」みたいに馬鹿正直に精読してたのですが、ああ、これは斜めに読むくらいで正しい読み方なのだなと気付いてから少し楽になりました(笑)
もしくはにちのさんのように持ち歩いてちょくちょく読み返したりするのも、いいかもしれません。


1章では、人間の「あるある」な一面を極端にカリカチュアされた雑多で奇想なキャラクター達(だって文房具だよ!? すごい発想)が織り成す壮大な寓話として、身につまされたり笑ったり。
3章では、それらが結実する「戦争編」とでもいいますか、1章で笑って読んだり2章で覚えたりした人物、歴史が容赦無く殺戮、破壊、蹂躙されてゆく様に圧倒されます。SFの神髄ここにあり。でもこれって戦争、あるいは死という物の本質を突いているような気がしました。英雄でも常人でも狂人でも死は等価値なんだ。
そしていつしか文体は主語も視点も何の前ぶりも無く入れ代わり立ち代わり、自分も筒井さんの生み出す虚構の中に取り込まれて、立ち場所さえもぐらぐら揺らいでくる。でもそれが心地の良い酩酊感。読み終わった時にはもう終わらない夢の中に入っているのです。
どこから切っても、全章とも違う楽しみ方のできる、大作です。
壮絶。なんつーもんを書くんだこの人は。
全体をきちんと稀釈したら、『ユリシーズ』とか『失われた時を求めて』なみの超大作なんじゃまいかこれ。


文房具でどれが好き嫌いとか言えるのが楽しいですね。
分度器かこいい。そしてチョークとか下敷きとか、はた迷惑な文具には怒りさえ覚えた。
あと消しゴム死ぬまでそんな好きじゃなかったけど死に様に惚れた。あれこそ武士の死に様じゃー!