御緩漫玉日記(1)

日記漫画がこんなに期待されているのは世界を探してもこの人だけだろう。
と、いうより桜玉吉の前にも後にも「面白い日記漫画家」などというのは居ないのである。
前作の「幽玄漫玉日記」を心身共にボロボロの状態で終了し、さて今回は
どんな趣向で来るのか、と思っていた所、今回の漫玉日記は過去の漫玉日記シリーズとは大分趣を異にした。
前作までの日記ギャグ漫画スタイルに比べ、作者自らフィクションであると主張するかの様に、「桜玉吉」ではなく「桜タモ吉」が主役の回想お色気漫画(作中の表記から過去の話であると解る)が主となっているのである。
勿論「漫玉編」と表し、現在の近況を綴る面白可笑しい話もあるのだが、それは付加価値のような物である。
それは作者自身の「今はお色気昔話を後ろ向きな姿勢でイジイジ描いていたいのよ」との発言(P121)からも伺える。
最も、玉吉自身も離婚して以来の近況はどうやら悲壮な物である故、これを描きたくないのも当然だと思われるが(それでも「幽玄」から出ていた玉吉の懸想する若い娘、ぱそみとの同棲、そして破綻を黒い1コマで描いたくだりにはどうしようもない郷愁があった)。
一つ惜しむらくは、その「回想編」と「日記編」の区別がはっきりされていないので新参読者などにはやや理解がし難い物になっている事である。これは掲載順を変えるなどしてどうにかならなかったのであろうかと悔やまれてならない。まあ読み込めば解るであろう範囲ではあるが。

桜玉吉の漫画は文学であるとすら評する人が居る。
特に近作のその空虚さ、乾いた文体、世界観にはつげ義春を思わせるものがある。

今回の「御緩漫玉日記」で描かれた物は虚か実か。ネット上で果敢に行われているその判断などどうでも良いと思われる。ただ私はそのテクストの中に人間の本能に基づく苦悩や悲哀、そしてそれ故に生まれるささやかな可笑しさを読み取れれば良いと思うのである。

御緩漫玉日記 (1) (Beam comix)

御緩漫玉日記 (1) (Beam comix)