フットパス・バンド・ディケイド・ラン

昨日今日の話。
小中学時代の地元の同級生が、就職して大阪に引っ越すらしいので、近所までお呼ばれして門出を祝ってきた。
といっても、今はもう頻繁に会う機会があるわけでもなく、今回会ったのも3年ぶりとかだったので、僕の感覚的にとくに変わりはないのだけれど、丁度気持ちを切り替えるタイミングと合致したので。
思ったより昔の人が多くて、貴重な経験だった。
中学に卒業して別れたきりの同級生にも遭遇したりして、つまり記憶から10年近くの時が流れてるわけで……。まさか、当時の素朴な少年が地続きで老けた渋い坊主のマッサージ師になってるとか想像もつかなくて、その変貌っぷりに、記憶の上書きとかを苦労した。僕の記憶はROMか。
というか有り得ないぐらい雑多な職業の人がいたなあ。マッサージ師、床屋、コック、パティシエ、ゲーセン店員……小さな子供がいる奴までいた。当然「sunagiはいま何やってるの」みたいな話にもなったりして、「いやあ……5年かけて大学を卒業して、今は引き籠もりぎみになりながらフリーターを目指して職を探し……」「しかしバイトも続けて落ちてて……」「いまは布団アーティストです。毎日布団に夢を描いています」と、だんだん説明しながら声が小さくなり、自分がその場の面子で一番底辺にいることに気が付いて地味にサガる。立派な落伍者。


その夜、ひとつ部屋に泊まった、一番古くから知っている友人と布団ごしに、長い話をした。


中学の頃の僕らは、本当に面白かった。
日常会話一つ取っても面白くしようと、ピリピリと張り詰めた緊張感の中、身を押し合いへし合い滝を登って竜になろうとする鯉の群れのように、切磋琢磨していた。
肥料の臭いのするあぜ道を、リュックを背負いながら下校して、畑に座り、だらだらと夕暮れになるまで漫談のようなべしゃりを続ける。ゲームやケータイがなくたって、最高に面白かった。
当時の僕らは、僕らが最強だと思っていた。
あの場の全員が、どこへでも行けて、何になっても、一角の人物になれると思っていた。
それから10年が経った。
それぞれの道を歩いた僕らは、何処かへ辿り着いてしまっていた。
僕だけがここに留まっている。不安になる。
もしかして、あのあぜ道に最強を感じていたのは、僕だけだったのかもしれない。
そんな焦燥感に駆られた僕は、誰もが眠り、しんと静まった部屋の中空に向かって「僕だけが夢を見続けているのかな」と呟く。
暫くして、顔の見えない布団の向こうで、彼は答えた。
「……いや、お前はそれでいいよ。俺らは誰か一人には、上に行ってほしいんだよ」
「……つまり?」


「俺とかはドロップアウトしたけど、お前が上に行ってくれれば、それはトーナメント一回戦で負けた相手が優勝したみたいなことだからな。喜べるんだ。あのあぜ道が、本当に最強だったんだって、証明してくれよ」


ああ、当時の僕らを信じていたのは、僕だけではなかったのだな。そんなことに、僕は少し救われた。


「あの頃の俺たちはバンドみたいなものだったんだよ。お前や**(消息不明の友人)みたいなすげえボーカルがいてさ、俺は、キーボードみたいな、裏から支える係だったから。だから、解散してフェイドアウトしても、いいんだよ」
と、彼はうまいことを言う。
「そうだな。いや、でも、まったく君も含めてさ、僕らのグルーヴは凄かったぜ。一人一人の能力も高くて。まるでツェッペリンみたいだったな」
「いや、それは美化しすぎだ」
ぴしゃりと釘を刺された。


それから、もう少しの間、僕の腐りきっていた高校時代大学時代の話や、いまは何処で何をしているかも解らないもう一人のボーカルの思い出話などをして、気付いたら、眠っていて。
それは、いい夜だった。
ちょっとだけ、あのあぜ道に、戻ってきたようだった。
うん。いつまでも腐っていてはならぬな。僕はまた新たに、彼らのためにも、何かを成し遂げるという責務を抱えた。
そして、もうしばらく、何とか頑張ってみようと思えたのだった。


あ、ちなみにその彼にこのブログのアドレスを教えたりもしたのだった。
やあー、いまこんな感じでやってまーす。
いつもはだいたいこれよりぜんぜんやる気のない感じの日記書いてるかエロゲの話ばっかしてまーす。