※ネタバレ注意『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』感想―あの日14歳だった僕へ

※ネタバレ全開です。できるだけネタバレを避けてほしい映画です。
また、話題性からおそらくこの国でこの映画のネタバレを避けて一ヶ月以上生きることは相当難しいと思われるので、楽しみにしている方は一刻も早く劇場に見に行ってください。


<この下からネタバレあります!>


まず、僕のTwitterでの鑑賞直後の感想だけ貼ってから本編に行きます。




世代論でものを語るのは危険だ。
本来、一括りにできる「世代」などどこにもありはしないからだ。
暴力的なラベリングから取り零された人間は疎外感を覚える。
あるいは、個人の体験を拡大し過ぎてしまうことは大きな陥穽でもある。


それでも、である。それを承知で、
これは世代論で語らないといけない作品だと思った。


すべては本編を貫く「14年」というキーワードにある。
1984年生まれで現在28歳の僕は、エヴァ完結編となる旧劇場版、通称「EOE」(1997)が公開された時に13歳で、それが再公開されたりソフト化されたりした翌年(1998)には14歳だった。
つまり、日本列島を取り巻いていたあの狂乱とも言えるエヴァブームの洗礼を受けていた時、主要登場人物たちと同じ中学生だった世代なのである。
ちなみに余談だが、昨今ではアニメタイトルに使われるほど認知度も高まった「中二病」という言葉。この『中二』=14歳という年齢であることも、語彙の本来の定義はともかく、人口に膾炙していった背景に「エヴァ」という作品の影響が決して皆無ではないと僕は思っている。


それから14年の時が流れ、公開されたのが、完璧なエンタメ作品であった「破」から「14年後」を舞台にしたこのヱヴァQだ。
どろどろの、ぐちゃぐちゃの、あの情念を掻き回すような自意識煩悶路線のいわゆる「エヴァ」だった。
この符合は、恐らく偶然ではないのだろう。
その意図を裏付けるかのように、監督はさらに残酷な仕掛けを施す。
エヴァパイロットであった、主要登場人物たちは誰一人成長していないのだ。
それでいて、ミサトさんを始め、エヴァに乗っていなかった人物は否応なく加齢している。
あの時のまま、14歳から成長していないシンジ、アスカ、レイ。
スクリーンに映し出されるその姿は、百の台詞よりも雄弁に観客の僕に向かって呼びかける。問いかけてくる。
あれから14年経ったんだぞ。みんな成長してるんだぞ。
お前は、なんで14歳から成長してないんだ?
その孤独と疎外感は最終的に、シンジが世界を滅ぼすトリガーの一つにさえなっていく。


かつて、「EOE」での庵野監督のメッセージはシンプルなものだった。


現実に帰れ。


誰も帰らなかった。
むしろ僕に至っては、エヴァの呪縛(アスカが作中でわざわざ口に出したものと同じ!)に未だに縛られ、オタクたちにとって共通文法のようになりつつある「綾波系キャラ」を駆使さえするラノベ作家になっていた。
なんたることだ。


そんな風に観客を絶望の底に、そしてシンジをも絶望の底に落としてから、この言葉が出てくるのである。
「希望は残っているよ。どんな時にもね」
なんと解りやすいセリフだろう。
そしてたぶん、14年前には絶対に出てこなかったであろうセリフだ。


そう、恐らく、今回の新劇場版で庵野監督が描きたいものは「希望」なのだ。


喧嘩腰で「現実に帰れ」と言っても、誰も帰らなかった。
だから今度は、責任の取り方として、突き放すのではなく、
絶望に満ちた世の中でも、一縷の希望を持ってその「先」を描くことで応えようとしているのだ。
まるで北風と太陽の寓話のように。


すべてはあのあまりにも美しいラストシーンに集約される。


かつてサードインパクトを経て、世界の崩壊と他者の拒絶で終わった物語は、
今、その続きを見せてくれようとしているのだ。
あの時、崩壊した世界の中で、お互いを拒絶するしかなかったシンジとアスカは、
14年後の今、変わらない姿で顕現し、希望を持ってようやく手を取り歩き出した。
14年間どこにも行けなかった僕らは、
あの時14歳だった僕らは、
それでもどこかへ歩きだそうとしている。
中々ロマンチックな話じゃないか。


絶望のその先へ向かう――
果たしてその旅路の先に何が待っているのか。
完結編の公開を、僕はいつまでも楽しみに待ちたいと思う。
(やっぱり現実に帰れてねえじゃねえか!)←大オチ




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そんな、エヴァ直撃世代である僕が書いているライトノベル寄生彼女サナ」は、刊行予定が出まして、来年1月に4巻が発売になる予定です。
ぶっちゃけるとまだ書いてる。しかも年末進行もある。ブログを書く暇があったら原稿やれって割と怒られる。
だからせめてこのエントリに共感していただけた方がいましたら、本を買っていただけると嬉しいです。

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また、12月26日発売の月刊コンプエースより、ソウマトウさん作画のコミカライズ版もスタートになります。
こちらもよろしくお願いいただけたら幸いです。

おまけのおまけ・Qネタバレ感想メモがき

  • 観ている最中「どうすんだ、これ」以外にずっと浮かんでた言葉としては、「きつい」「庵野やっちゃったぁー!」「大団円って言ってたじゃないっすかぁー!」などがある。
  • 破のラストでシンジさんに「行きなさい!」つってたミサトさんを今観ると乾いた笑い起きる。ていうかあの辺全般茶番感やべえ。世界まる見えの「この後取り返しのつかないことに!」映像感。
  • シン・エヴァンゲリオン劇場版:|| このミーニングのすばらしさ。シンは新である上に、sin(罪)で、シンジのシン。贖罪の物語になるんだろう。そして、表記が「ヱヴァンゲリヲン」から「エヴァンゲリオン」に戻った上での、末尾の反復記号。および、反復記号の直前の「:」をただのセミコロンと捉えると、終了の記号でもある。
  • 黒波さん……。と思ったら本当にネットの愛称黒波さんだった。俺はぽか波さんも好きだったよ。
  • アスカの可愛さが俺内過去最高ポイントを叩き出した。しきなみつおい
  • 新キャラ大量に出たせいか、マリさん影薄いぞ。最後のパーティ参加もしなかったし、も少し存在意義がんばって。ていうか、エヴァに乗ると不老設定によって、マリさんロリババア説浮上……!
  • ほもは尺取ってたわりに思ったより萌えなかった。今までのが凝縮されてて良かったのか。