同人エロゲ「ひまわり」レビュー

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同人サークル「ぶらんくのーと」の「ひまわり」というゲームをプレイしました。
はっきり言って、今年プレイした作品の中では今のところ一番良かった。
この作品には作者さんのエロゲに対する愛が詰まっています。様々な作品のパロディ(中でもFateパロはワロタ)やオマージュに満ちています。それはつまり、既存の作品をなぞっていると言うことでもあり、決して尖った作品、時代を変える作品ではないかもしれない。
しかし、プレイしていて面白い。
それなりに長さを持った作品であるのですが、その長さが苦痛でなくてもっと遊んでいたい! と思えるゲームは久しぶりでした。まず、この感覚を取り戻せたことに、第一の讃美を贈りたい。
僕はシナリオライターを「テキスト」で評価することが多いのですが、この作品は「シナリオ」が秀逸です。
テキストの雰囲気は、例えるなら、るーすぼーいに、田中ロミオを混ぜてちょっとるーす成分多めで割った感じかな。
「シナリオ重視派」のエロゲーマーさんの中で、「車輪の国、向日葵の少女」の、裏切られる感覚が好きだったり、田中ロミオの、衒学性を下敷きにしたSF展開(主に今作では遺伝学、天文学の蘊蓄があります)が好きだったりする方には、文句なしにお薦めします。


ジャンルは「ロリっ娘宇宙人同棲ADV」とはなっていますが、これは撒き餌です(笑)
ある意味「ドラえもん」を「ネコお世話ロボット同棲アニメ」を言うぐらいの感覚なので、あまり鵜呑みにしないでください。
本当のジャンルは……青春 or SF+生命賛歌ということになるのでしょうか。
第一章のストーリーだけ掻い摘むと、記憶喪失の少年がいて、ボーイミーツガール(宇宙から女の子が降ってきて)、宇宙を目指す部活動「宇宙部」の中で青臭く仲間たちと青春する、といった、よくあるエロゲの展開と思えなくもない。しかし、このゲームが本領を発揮し始めるのは第二章からです。
この作品の本当のスケールが明らかになってきます。
ネタバレは興を削ぐので言及しませんが、中でも第二章終盤の展開は、鳥肌ものとだけ言っておきます。


このシナリオの魅力を一言で表すとしたら、「伏線」ということにやっぱりなるのでしょうかね。
伏線の広げ方と畳み方が、見事です。
凡庸なミステリ作品においては、伏線というのは終盤まで読者を駆動させるために序盤で広げられて、最後にまとめて回収されるものです。
しかし、この作品は違う。作品を進めるに連れて、続々と伏線が回収されていきます。芋の蔓を引き抜くが如く。それが作品を先に進めたいという原動力となります。
そして、全体に散りばめられた伏線があるべき場所に収束し、パズルのように一つの絵柄を完成させていく快感。これは、商用作品まで含めても、随一のものがありました。なにしろ20時間という時間をかけるテキストのあちこちに伏線が落ちているのですから。大トリックで魅せる「ever17」「車輪」ともまた違う興奮でした。これがあるからたまんねえな。


システム周りも快適。ただ、スペックが低いと若干動作に時間がかかったりします。強制終了すると既読判定消えたりするから気を付けろ。実は僕この落とし穴Fateでも落ちたんだけど。待てこれは吉里吉里の罠だ。
CG枚数が少ないのは残念だったかな。まあ同人で言っても仕方ないでしょう。でも絵は個人的に好み。あと、エロシーンは全くエロくないです。が、ストーリー上に必要なエロなのでまあ許容という感じ。
音楽はフリー素材の組み合わせですが、それで結果的に幅が広くなってます。


そしてなにより、一番のセールスポイント。
この作品は1300円(イベント頒布価格なら1000円)という低価格です。
それでいて、20時間程度のプレイ時間。このコストパフォーマンスは特筆に値します。
「値段を評価に含めない」というレビューをする人がいますが、僕は作品の費用対効果というものは考慮されるべきだと考えていまして、この完成度なら、あと二、三倍の銭を出しても良いぐらいの満足度です。
なので、大作に飢えてるすべての「シナリオ重視派」のエロゲーマーさんに、声高にお薦めしたい。興味が少しでもあるなら、はっきり言って、損はしないですよ。まずは、第二章まで進めてみてください。


  〜関連リンク〜

ぶらんくのーと 『ひまわり』コンプ感想 - 或るシンフォニック=レイン好きの住処

作品への思い入れで判断だとカタハネとどっちが上かはまだ微妙だけど、
純粋に作品トータルの出来で判断して個人的な2007年ベストは「ひまわり」で確定。

とにかく同人だから出来るであろう、作者の「宇宙」への想いが溢れた作風に、
中盤以降、次から次へと回収され、また更に張り巡らされる伏線の数々と、
二転三転しながら明かされていく「真実」の重みといった構成の巧みさ、
何より見た目の幼さ・可愛らしさに反して、それぞれに重い背景と内面の葛藤を抱えながらも、
前に踏み出す意志を持った、記号的テンプレートに留まらない、魅力的なヒロインと
一つの「物語」としての完成度は、商業-同人の区別無しに、名作・傑作と評価されるべき出来。

伏線回収の巧みさと、事実の大きさという二つの面で迫ってくる衝撃には圧倒されて、
前にも書いたけど、「Ever17」以来の衝撃(流石に衝撃のでかさではEverのがかなり上だけど)。

だいたい言いたいこと代弁してくれてます。