人類は衰退しました 〜これがロミオ流ジュブナイル〜

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

このレビューは若干のネタバレを含む可能性があります……っていうか、ぶっちゃけて言えば、この小説に関しては、ネタバレは気にしなくて良いです。
amazon商品紹介にある範囲以上のネタバレは、さほどありません。

わたしたち人類がゆるやかな衰退を迎えて、はや数世紀。すでに地球は”妖精さん”のものだったりします。平均身長10センチで3頭身、高い知能を持ち、お菓子が大好きな妖精さんたち。わたしは、そんな妖精さんと人との間を取り持つ重要な職、国際公務員の”調停官”となり、故郷のクスノキの里に帰ってきました。祖父の年齢でも現役でできる仕事なのだから、さぞや楽なのだろうとこの職を選んだわたしは、さっそく妖精さんたちに挨拶に出向いたのですが……。

まあこういう小説なんですが。
かわいすぎる。
何が可愛いって、妖精さんがです。
私は確かにこの感情は「萌え」とは別種の物であると認識しました。だから「かわい悶え」です。ぬこを見た時の感情と同じ。


これはロミオさんの小説デビュー作で、ガガガ文庫というレーベルの新規ラインナップなのですが、あとがきによれば、「とんがった作品の多そうな中で、あえてキレイな作風でダークホースしようとした」「児童文学っぽいタッチで描かれる、短編連作形式の、張り巡らされた伏線とか緻密な構成とか魅力溢れる登場人物とか冴え渡る推理とか一切必要ない、実にリラックスしたノベルとなる」予定だったそうです。「空気系」の漫画が大流行している昨今、大変解りやすい指標です。そして、そこからスピンアウトしてしまった小説であるという自解も、実に的確です。なんだ、我々がレビューを書く必要なんてないじゃないか。
結果的にこの作品は女の子にもお勧めできる、「かわいおもしろちょい黒SFファンタジー」に仕上がっています。
ですが、やはりロミオ節というか、隠せないインテリジェンスや微毒や笑いが電柱の後ろから明子姉さんのように見え隠れするのですね。それを見て自分のような狂信者は「ロミオだロミオだ!」と蛙を見つけた小学生のように大はしゃぎしてしまうのでした。


児童文学という事で、恐らく、この作品は佐藤さとるさんの「コロボックル」シリーズに影響を受けていると思われます。
本作と同じく身長10センチ程度の小人、コロボックルとの出来事の話なのですが、シリーズ第一作の「だれも知らない小さな国*1でも、本作と同じように、出会いは三人のコロボックルとでした。

「それじゃ、まん中にいた小さいのだね。ぼくは、きみたち三人はきょうだいかと思っていた。」
「ミンナ キョウダイミタイダヨ。デモ、ツバキノヒコハ トクベツ ナカヨシ。」
「そうかい。あのまるいのは、なんていうの。」
「エノキノヒコ。アレモ ナカヨシ。アレハユカイダヨ。」
 わかものはそういって、またつけくわえた。
「ワシラ サンニンガ、ユックリ シャベル レンシュウヲ サセラレタンダ。」
「へえ――ぼくのためにかい。」
「ソウ。コンドカラ、ワシラガ、チョイチョイ ヤッテクル。」
「うん。ぜひそうしてくれ。」
 ぼくは、こぼしさまのしていることが、すこしずつわかっていくような気がした。長いあいだ、ぼくをしらべたうえに、三人のれんらく係まで用意していたのだ。
「ヒイラギノヒコに、エノキノヒコに、ツバキノヒコか。」
 ぼくはつぶやいた。三人そろったら、こんがらがりそうだった。もっとなかよくなったら、べつのよびやすい名をつけてやろうと思った。

言葉がカタコトな辺りにも共通点が見られます。これを、田中ロミオが書いたらどうなったか。

 せっかくお近づきになったのですから、個体として認識する術が必要です。観察対象の野生動物をナンバリングするような、何か。
 相手は対等の(あるいは上位の)知的生命ですから、一方的なことはできません。名札をつけるとかの披験対象には取れないのです。
 だから方法は実質ひとつしかありません。
「皆さん、ご注目」視線を集めて「わたしは、これから妖精さんたちと仲良くしたいと思っています。なので皆さんに名前を進呈させてください」
 妖精さんたち取り乱します。
「ばかな」「そんなことが?」「かちぐみやんけ」「いっそたべて」
「じゃあ食べます」

言葉使いが明らかにジュブナイルを逸脱してしまっています。それでいて、「かちぐみやんけ」などのシニカルなユーモアが混在するこのごった煮感。
先に進んでも、人類の繁栄にホッブス文化人類学を引用する辺りなど、「ああっ、もうだめ、知的細胞が刺激されてニューロン発射しちゃうぅぅぅ」と昂奮の極みでした。これがもし「最果てのイマ」だったら、blogで論文が引用されるんだろうなと思うと、ハァハァ(*´Д`)もうあかん。


これは子供の時の気持ちを思い出したい大人、背伸びしたい子供のためのロミオ流ジュブナイルファンタジーです。*2今までのロミオゲーのような天地倒錯感、世界が揺らぐ感覚を味わいたい方は肩すかしを食うかもしれませんが、この「続けるために」あえて明かされてない裏設定を考えると、底黒いものが想像できるというか、第一巻としては結構わくわくできます。せ、戦争編とかあるんじゃないかな……! ハァハァ(*´Д`)
是非、この作品が売れて、小中学校の図書室に置かれるようになって平成生まれがググる光景が早く見たいです。

*1:

*2:なんと、「最果てのイマ」でジュブナイルアドベンチャーを謳っていてどこがやねんというほぼ全員のツッコミがいま開花。