四月一日 その一

先日の月が綺麗な日に、女性器が生えてきました。
私の身体はその頃いまだ上弦でした。
いま眼前にあるのは+螺子を回す用のドライバーです。
ばりばりめりめり。赤黒い二枚の腐肉が直腸のように赫奕し異物を喰い尽くさんと蠕動して大腿部からの出血も恥辱と忿恨を斉奏する騒音に変わったので、このドライバーで該当部分を切除する作業に入りました。
則ち、男性部分の四分の三と、女性部分の五分の二です。
併せて一にならないので、私は目出度く人では無くなりました。
居ないのと同じなのです。


さて、そうなると性器は何塵芥でありましょうか。
鳴動する空疎な虚言に漬し盟神探湯する事によってソナー効果を得る事が出来ると無始曠劫から決まって居ります。
私の矮小な卑言(それは或いは自意識の在処を問い、懊悩する乾麺達にも脂膏と成り得る物ではありましょう)は「雪中行軍」と障子の隙間から劣化ウランに塗れた両手を差し出したので理性を駆る事にしました。
則ち行くべし北方領土。野蛮な欧露を掃討し水回りに秩序を。体躯は流言飛語より弁巧なり。
走馬暁雲を越え暫く腓腹筋を揺らすと浮浪者の中年男が鋭く伸びた中指の爪で喉仏を掻き毟っていました。
がりがり。ばりばり。
その先端が薙がれる度に皮膚が捲れ上がり、その隙間から粘度の高い深紅の凝塊がどろりぶくぶくと泡を立て零れ落ちていきます。
「益体も無い業を」
と私が呟くと、
「死に、毒海で」と倒置法で慴伏の種を蒔きます。
即時に花瓣が蹂躙され、網状の脳漿が知解しました。ここに残留しているのは最早暴力とも言えない、憐れで愚蒙な異形の劣った鈍の匕首の欠けた鮫の歯の先端に引き裂かれ、その切っ先に残った繊毫でしか無いのです。
ぐう、たぱたぱっ、ぎりぎりっ。これは後頭部の奥で何かが軋み抑え付けられ、反撥が敷布の上にまで伝播される音で。
私の残滓を侵すのは構いません。けれど、私の人格まで侵犯しないで下さい。
私は奥歯をままならぬ忿怒の感情に咬合させ、勢いよく男の双眼窩に両の親指を突き立てました。
ぶぢゅう、と指の底で何かの液体が漏れ滴る音がしました。
生殺与奪の権を握る事で、厘毛の如き愛情のような歪な空間が生まれる事もあります。
最早何も映さなくなった小汚い闇穴と悶え痙攣する四肢の先に流れ停滞する感情を視る事は増幅し輻輳し華を換え異様な昂ぶりと共に自他の認識は逼塞し私は切り取った私の陵辱しました。その先で何度も聳やぎ屹立した嬌声を彼女の理解できる言語に翻訳します。
「私は私の眼だけを侵す事が出来る、何度でも」
それは逆説的に眞理であり虚偽でありました。


これは私という新たな性別が所有権を放棄し、得る話です。
露西亜に行くのは止めました。
放浪する肉塊の汚穢に満ちた声は今も私の背後から取り憑いています。