いつかきちんと書く予定の鉛筆削りについての物語

(グロ注意)


擦り傷が出来る度にその部分を切り落とすということをやっていた。


私の家には人間の赤ん坊さえ入りそうな巨大な電動鉛筆削り機があったので、身体の一部分を入れると皮膚は一回り小さくなって新しい皮膚が出てくるのだった。もちろん痛みが無いはずはない。暗い海溝に手を差し込むと、刃物で削られるというよりもむしろ千々に引き裂かれるように肉が裂け、四方に飛び散った。
皮を剥かれた禽獣のように赤くべっとりと粘液で染まる四肢を眺めて私は恍惚とした。


濡れた電車の中で、持っていた傘が誰かの足先を突いたことがあった。
車内の冷たく湿った空気に、罪悪感が窓の外から霜のように降りてきて、身体の内側が捲れ上がった。しかして車内の誰にも、突かれた本人にすら、その出来事は何事も無かったかのように看過された。
どうやら世間ではそんなことは些末な出来事として捉えられているらしかった。
自分の存在が誰かの悪意となって存在することが苦しかった。
私が私を罰さないと誰も私を罰さない。
私は世界に贖罪しようと思った。
寸毫の価値も無い命を人の分まで削り尽くす、それが私に唯一残された有用な使い道だった。


レイプ事件のニュースを聞いた夜、私は陰茎を鉛筆削りにねじ込んだ。
ちゅいーんまそまそまそという音がして私自身が小さくなった。私に性別がなくなった。
耳朶を挟み込むと、がちゃばりばりと軟骨を粉砕して不細工な餃子が側頭部に付くようになった。
それでもまだ足りなかった。


21の朝に何処か不安気な女性と出会った。
彼女はいつも手動に拘り、せせこましくナイフを六角棒に当てて小刻みに動かしていた。
私が機械に入れれば自動でやってくれるよ、と助言したら、
「自分で鉛筆を削るのが好きなんです」と彼女は言った。
「鉛の匂いとか、飛び散る木屑のかけらとか、しゅこしゅこと世界の分離する、音が」
そう薄高く悲鳴を上げる彼女の腕と指先はいつも木屑の鉛の粉で汚れていた。


乳児を蹴り殺した男の話を聞いた夜に、足を削っていたら、ぼきりという音がして左足の芯が折れる音がした。四肢は、次々と折れ朽ちていった。達磨のようになった私は何処にも行けず、自分を罰することもできず、ただ浪々と命を過ごした。あの女性にもう一度逢うことがあったら、どうか最後に残った頭を刃の渦に入れてもらおうと、それだけを考えていた。