最果てのイマ category3 第一回

  • 当プロジェクトは、(C)XUSEのソフト「最果てのイマ」の二次創作であり、田中ロミオ氏はじめ本編とは何ら関係のない私の妄想であることを強調します。
  • 当プロジェクトは、「最果てのイマ」で省略されたcategory3はこんな感じだったんじゃないの、というのを自分の推察のままに書き殴ったものです。ネタバレあり。
  • 長期化計画ですが、優しく配列しないので時系列のことは考えないで下さい。
  • 見切り発車で出すものなので予告無く文章の改変、改竄、削除などが行われる場合があります。
  • ていうか衝動的にはじめたので今後どうなるかも不明です。


最果てのイマ

  category3


――彼はいつも正しかった。
わずかな時さえ惜しみ、世界の守護に奮闘した。
誰にも知られることなく、心煩わせることもなく。
殺風景で今にも朽ち果てそうな廃工場でさえも、
そこは彼の愛した世界の全てだった。
過去の記憶に思いを馳せる度に……
彼の胸は、満腔の幸福に満ちた。
世界の悪意は、しかし異なった所感を抱く。
忘却された人材など、唾棄し、処分する以外に道は無いと。
使えないものを破棄し、有用なものに置き換える。
世界が連綿と繰り返してきた摂理をなぞり
彼は世界の除け者になった。
家庭でも世間でもない安息の場所。
彼が《聖域》と呼んだ場所。
……世界は暴力と悪意に満ちている。
人は外見でしか人を判断しない。
どんなに大切なものも永遠に不滅ではない。
しかし。
たとえ防衛が一時だとしても。
それは彼の世界を少しでも延ばすことになる。
だからこそ七人でいた時は
かけがえのないものとなるということを――


千々に裂かれた少年の思い出。
どうか、優しく回想されますように――



chapter『死者の曲』


その日聖域に行くと、CDプレイヤーには音楽が流れていて、
ソファには章二が一人で寝ころんでいた。
忍は鞄を置くと、ソファに近づく。
忍「章二、起きてる?」
章二は傲然とソファに寝転がりながら返事をする。
章二「ああ、シノ、来てたのか」
忍「珍しいね。一人で聞いてたのにデスメタルじゃないなんて。しかもクラシックだよ」
章二「確かに、いつもの俺なら、踊り狂わんでもないが。しかしなあ、
硬派の男にはたまにはセンチな気分になりたいこともあるんだよ」
忍「なんだっけ? こないだ暴れすぎて、ティーポットを破壊して
全員から総スカンを食った曲は」
章二「『昆虫デスウィッシュ』のシングル曲、『虐殺ゲンゴロウ、胎児を食す』だ」
あの時は笛子は怒るは、斎は刀を持ち出すわ、沙也加は見下すわで阿鼻叫喚地獄絵図だった。
息をつく。だが、対照的なことに今日、その場に流れていたのは――
エリック・サティ。ロジェのピアノで調弾されたサティの「3つのジムノペディ」だった。
忍「サティか。地味だけど、いい選曲だね」
章二「サティの音楽は――」
忍「え?」
章二「サティが目指した音楽は、「家具の音楽」っていってな。
家にある家具のように存在を意識させず、空間の心地よさを提供する。
ま、現在でいうBGMの考えの奔りだな」
章二はソファの上からじっと動かず、眼を瞑って、ジムノペディに耳を傾けていた。
章二「クラシックって、俺にとっては、本来まあ嫌いじゃないぐらいの存在なんだがな」
章二「サティは大好きなんだ」
ピアノの儚く美しい音色が、何度も何度も、旋律を繰り返す。
その旋律が、一曲が終わったらCDにリピートプレイされ、また幾重にも繰り返される。
そんな無限に続く、清く寂しい旋律。それは憂いを帯びつつも、世界は悠久に続いていくかのような錯覚
を彼らにもたらして、廃工場の少年二人がメランコリックになるには十分すぎた。
章二「シノ、少しクサいかもしれないが……」
忍「放屁なら外で頼むよ」
忍のボケを看過して、章二は押し出した。
章二「これから俺の身に何があっても……俺がこの曲を好きだったことを覚えていてくれ。……それだけだ」
忍「それだけ?」
章二「ああ。それだけでいい」
あずさ「あー、なんか聞いてるー!」
部屋の入り口から大きな声がした。あずさだ。後ろには葉子もいる。
あずさ「ねー、なんか暗いよ。もっとけーきのいいやつ聴こうよー。あ、あれ知ってる?
だんご28兄弟っていま流行ってるんだってー」
忍「大家族だね」
葉子「いいえ、一玉の団子をちぎっては投げたら誰がお兄さんか解らなくなって殺し合う童謡です」
あずさ「さ、さつばつっ! しかもちっちゃくなってるし!」
章二「だあああああ! お前らうっせえええ! よし! 解った! メスガキ!
この俺様が景気の良い曲を流してやる!」
忍「章二、それは……」
時既に遅かった。章二は流れるような動作でプレイヤーのイジェクトボタンを押し、代わりに
黒地に臓物や血が流れる禍々しいオーラを放っているジャケットから取り出した銀色の円盤を
マシーンにコンバインしていた。
CD「昆虫ーーーデェエスウゥゥゥィィィッシュウウゥゥゥゥ!!!フゥゥィゥアアッッッッキュウ!!!!!」
両さん眉毛より太そうなベースラインと、気が狂うほどのツインペダルバスドラの早打ちに乗せて、
殆どメロディを為してないディストーションギターが被さり、平均的成人男性の二オクターブは
高いと思われるボーカルのガラスでも割れそうなハイトーン・ボイスが聞こえてきた。
あずさ「ぎゃー! ちょーうぜー!!!」
そして踊り狂い始める章二。それに嫋々と抗議行動(暴力)で対抗するあずさ。ぽかぽかする音はかき消され。
それを呆れながら観察する忍。葉子は何気なく曲に耳を澄ませている。その日のそれも、たわいない、いつもの乱痴気騒ぎだった。


それだけでも、彼には守るべき居場所だった。大切だったのだ。