Until Then
開発:Polychroma Games
パブリッシャー:Maximum Entertainment
定価:2300円
ゲーム『Until Then』をクリアしました。16時間弱。
基本はドット絵2DのADVゲーム。制作はフィリピンのゲーム会社。
最近だと『A Space for the Unbound 心に咲く花』とか、インディーでもこの手のジャンルが増えてきてる印象ですね。あれはインドネシア産でしたが。
本作はフィリピンの男子高校生として「裁定」という大きな事件が起きた世界で友達と日常を送りながら、不思議な出来事やらに向き合っていくというストーリー。
ゲーム性はほぼ一本道ADV(ミニゲームはちょいちょい挟まれるけどストーリーに関係ないミニゲーム)なため、ゲームという媒体で表現されるインタラクティブストーリー、ぐらいの感覚でプレイした方がいいかも。
それでクリアした感想ですが……サムズアップかダウンかで言うとサムズアップで、やってよかった! とは思いつつも、不満点もちょいちょいはあるため年間ベストとかまではいかないって感じです。
いいところで真っ先に挙がるのは演出。マジでいい。
横スクロールとはいいつつ、結構な頻度でコミカルなカットが入ったりして、見ているだけで楽しいしキャラクターに愛着が湧く。
セリフも全部フキダシなので日本の漫画ですね、もう。
また、作中でチャットやSNSが出てくるのですが、チャットの文章を「書いて消したり」することで表現される葛藤とか、友達に「いいね」を押すことでセリフが変わったりとか、SNSありきの高校生の青春が疑似体験できるのもいい。
そういう意味では、コントローラーで遊ぶよりキーボードとマウスで操作した方がいいかも。
一方、ゲームを「演出」に全振りしているため、ゲームとしてのテンポはやや悪いかもしれません。歩く速度は遅いし、探索でフラグを立てないと進まないし。USBを差すのに何回も裏返したりとか、表現の意図はわかるんだけどw
その辺りの不便さを表現として受け入れられて、物語が楽しみたい人にはおすすめできるかもって感じです。
あと日本語翻訳もおおむね良好、音楽も良かったです。
ということで以下、クリア後前提のネタバレありで書きます。
不満点とかも書くのでご了承を。
<<<<<ここからネタバレ>>>>>
キャシー可愛すぎるでしょ。
たぶんキャラクター人気投票したらキャシーがぶっちぎり1位になるんじゃない?
キャシー、性的嗜好はレズビアンなのかな?と思いつつ、ジャギーとかいう子のことも好きだったみたいだからレズビアン寄りのバイセクシャルなのかな。
そう思うと、マークとくっつく未来ってなかったのかなあ、と思いつつ、最後のエンドでは家族みたいなつながりになってたし、逆に色恋沙汰にならないところにこのゲームの良さというか伝えたい部分があるような気もする。
とはいえこちとら一プレイヤーだからキャシーが好きになってしまうのは仕方ない。
そして、キャシー好きだと一周目のクライマックスが刺さりすぎる。良くも悪くも。
両親との折り合いや兄の扱いや、長袖しか着ない時点で、虐待か自傷癖があるのかな?とは薄々思ってたけど、それが明かされるのが最後のトラック前に飛び出すとこ(タバコの痕っぽく見えたから虐待なんだろうな)ってのがね。
それから、数年後かのシーンでCDを再生すると隠しトラックが入ってるとこ。
ここの演出は作中で一番よかったと思います。自分でトラック5を再生することで「理解する」演出がナラティブとして見事。
その後でレースゲームの「ゴースト」にキャシーの面影を感じさせるまで畳みかけるのは少しやり過ぎだった感がなくもないw
で。逆に言うと、このゲームで一番心に刺さったところがここ(一周目のラスト)、ってことは……。
ゲーム終盤にちょっと尻窄み感がどうしても出ちゃったんですよね。ここが大きな不満点です。
基本的に、このゲームの構造を考えると「シュタインズ・ゲート」がやりたいんだな、と思いました。
最初のルートで死んでしまうキャラ、という立ち位置でもキャシーはシュタゲの某キャラとかぶるし。(ループを進める度に世界がどんどん悪くなるあたりとか。一人と恋愛要素があるあたりとか。)
で、そうなるとユーザーとしては「うおおお2周目が始まった!? 世界線が変わってる!? これループものだったのか! キャシーが生き残れる世界線を探せるのか!?」ってモチベーションで遊ぶじゃないですか。
しかし、このストーリー展開だとマークの認識が「デジャブ」止まりなため、ループものにありがちな悲劇回避のために動いてくれません。
さらに、前述した「演出を優先した結果としてのゲームテンポの悪さ(歩く遅さ、フラグを立てないと進まない進行)」も加味されて、どうしてもプレイヤーと主人公の心理が乖離してしまうのが避けられないと思いました。端的に言うとストレスが溜まる。
そして、いよいよなんとかできないかっていう最後のループ。
このゲームの不思議な出来事に対して、SF風味で量子ゆらぎとかパラレルワールドとかの説明をしてはいるんですが、理屈がふわっとしてるんですよね。
なので、終盤のキャラの行動には「本当にそれでいいのか?」って思うし、納得感に確信がないためカタルシスが生まれにくくなっている。ハッタリでもいいから、ルイーズにちゃんと「こうすれば世界線を一つに統一させることができると思う」「全部世界がよくなると思う」みたいな大目標をしゃべらせておいてあげた方がよかったんじゃないかな。
あと大オチもオープンエンドというか、プレイヤーに解釈させるやつだったんでスッキリ感が足りないのも余計に尻窄み感につながっちゃってるなあと思いました。
ちなみに、僕のストーリー解釈だと、あの黒い蝶2匹がそれぞれ「ジェイク」と「マリア(マークの母)」の魂で、マークとニコールの持つ「言うべきことを言えなかった後悔」や「人生がそうあってほしかったという感情」に共鳴して別のパラレルワールドを呼び寄せてたってことなのかなって思いました。その結果というか代償が「裁定」だったり、世界が悪くなっていくこと。
それで最後にマークとニコールが喪失を「受け入れる」ことができたから、世界線が一つに収束した……ってことなのかなと。
まあなにしろSF理論がふんわりしてるので、なんでルイーズも記憶を保持できてたのかとか、最後にどうしてマークとニコールが記憶を失ってるのかとかは結局わからないし、あんまりわからせようともしてないんじゃないかな。
その辺やっぱり……ループものならカタルシスは欲しかったなあと思いました。
しかしまあ、ゲーム全体では楽しんだし、やってよかった一本でした。
一周目キャシーのクライマックスシーンの「じゃあ、その時まで!(Until then)」が英語だとタイトル回収シーンになってるのに翻訳だとさらっと流されちゃうのは仕方ないとはいえちょっともったいなかった。