さくら

同期や一個下なんかはみんなmixiで発表してるので、僕はここで。
今日は大学の卒業判定の日でした。
まあ年度始まった時から、あと数単位だと思って余裕ぶっこいていたんですが……



……



…………


ああ、うん。




卒業決まりました。
ありがとうございます。



大学ってなんだったのかな。
って思うと、人間関係で得たものが一番大きいかな。
友人と呼んでもいいのかもって思える人が得られたり、同好の士や、芸術でプロを目指す先輩方、作家として活躍する先生方のご教授を拝したり、普通の大学ではありえない刺激の受けられるこの大学に入れて本当に良かったです。
正直言って、五年行ったことに大した意味は無かったけどね。うん。
去年夏とかに映画でも取ればよかったんだけどさ、その前に俺、心折れちゃったから……
映画サークルと音楽サークルの両方から、同時にメーリスが来なくなってしまった時には……
ああ、必要とされてないのかもなあっていう、あの瞬間に、折れたな。
サークルに二つも入っといてキャンパスラブもなかったことは禍根として残るぞ。まあひねくれるだけなんですが。


それも終わり。


なべてこの世は明けてイクのです。



駅前にさくらが咲いていました。
擬人化するならさくらは女性にしよう。


深夜、墓地でタクシードライバーがうっかり乗せてしまった、真っ白な布を羽織った生気のない女性。
「何処まで?」
「駅前の一本桜まで」
女は何処も見ていない。
能面のような、だが婉美な表情を俯けたまま、たまに腹などを摩りながらにんまりと微笑んでいる。
男は少し寒気を覚えながら、後ろを振り返らずに車を発信させる。


微笑んだままの女が、運転手に、聞き取れるか聞き取れないかぐらいの声で語りかける。
「桜の下には死体が埋まっているってご存じ?」
「ああ、梶井基次郎ですか、昔読んだことが……」
「あの説の角度は完璧ではなくてよ。あの小説の本当の伝えたかった意図はね」
女が息を呑むのが聞こえた。
「桜は何かを殺さないと咲けないってことよ」
それから、女はまた、くくく、と小さく、不安定な音程で笑う。
「だから私は、生まれてくるはずの春を殺したの」
車は、いつもより奇妙にエンジンの音も出さず、ただ竜の背の上を滑るように通りをくねらせ走っている。今だけ、女の笑い声が、推進する原動機になっているのだ。


やがて車は、駅前に似付かわしくなくそびえ立つ一本桜の前に停車した。
フロントライトの照り返しが、巨大な幹のごわごわした表面に幾つも影を作らせている。
「お客さん、着きましたよ」
……返事がない。
運転手は、嫌な予感に苛まれながら後部座席をこわごわ振り返る。
と、そこには、一葉の、桜の花びらがぽつねんと鎮座していた。
それも、一瞬。すぐに、後部座席の開いた窓硝子から差し込んだ一陣の風が、しゃんと、その花びらを掠奪していった。
舞い上がり飛び去る薄桜色の鱗。
アスファルトと漆黒の間に、溶けて行った花弁の行方は誰も知れない。
運転手は、何も言えずに、しばらくの間、闇に消えた桜を見上げてただ立ち惚けていた。
彼女が殺した、春は、まだ来ない。


彼女は、いま何を見て、何を吸ってそこに立っているんだろうか?


卒業式は25日です。