supercell feat.初音ミク「supercell」でボーカロイドを正しく愛してみる

http://supercell.jp/
2007年末、ニコニコ動画を中心に初音ミクオリジナル曲で、その楽曲のクオリティだけで一大ムーブメントを起こした曲がありました。今では再生数が400万に達しようかという、それがこの「メルト」という曲です。
初音ミク が オリジナル曲を歌ってくれたよ「メルト」
多分に漏れず、僕も当時はエンドレスでリピートして聴いていました。
その後、作曲者のryoさんは、絵師も含めて、『supercell』(積乱雲の意)というユニットを結成し、「ワールドイズマイン」「ブラック★ロックシューター」などの名曲をニコニコ動画のランキングに送り込んでいきました。(ちなみに本編と関係ないですが、「ブラック★ロックシューター」のフィギュアが凄いクオリティで話題になっているようです。僕もこないだ見本品を観てきましたが、あれはすげえ)


そんなsupercellの1stフルアルバム、もともとは同人で出ていたものに、かの「メルト」等の曲を追加し、ついにメジャーから全国発売されました。
これがまあ、2007年末からsupercellが作ってきた作品の、いわばベスト盤みたいなものですから、すごい良かったんです。
個人的にはアマチュアでボーカルが非人間のアルバムがオリコンデイリー2位に入ってるような現状にも快哉を叫びたかったりもするんですが、そういう音楽史の中での位置づけとか専門的なことは誰かが書いたりしてるでしょうから、僕は楽曲を好きなように紹介します。


supercellの楽曲の特徴ってなんなんでしょうか?
一つには、いかにもメロディーに乗らなそうなストーリー仕立ての歌詞を、日本人が気持ち良いと感じまくるツボを死ぬほど押してくるポップなメロディーに乗せることがあると思います。
こういう手法は、BUMP OF CHICKENRADWIMPS以降、微妙に流行ったりしてるように感じられます。
しかし、この手法にもデメリットがあります。
よっぽど上手くやらないと、あるいはよっぽどセンスがないと、いわゆる「中2」っぽいと呼ばれる、鼻につく青臭さが忌み嫌われることです。


そこで、それを軽減するために、supercellは策を弄しました。


主人公に「恋する女の子」を持ってくるという武器を使用したのです。
これは凶悪でした。
だって、恋する女の子は最強です。無敵です。
地球上で最も神聖で愛さずにはいられない生き物の一種です。
それを感じてしまったら、我々はどんな戦地にいようが停戦状態になってごろごろ悶えるしかないじゃないですか。
また、supercellが絵師さんも含めたユニットとして存在することの意味も、美麗なイラストとセットにして楽曲を位置づけることによって、受け手に物語を想像させられるということにありました。自己プロデュースがほんと上手いと思います。(個人的には「ワールドイズマイン」のredjuiceさんのイラストが神です)


そして、真に正しく恋する乙女の尊さを表現するためには、あまり生々しい臭いがしてはいけません。そこに表れたのがまさに機械の少女。歌い手としてこれ以上ないほどの適任者、初音ミクです。


よく、初音ミクの使い方が上手いことを、「良く調教されている」と言います。それに対しsupercellの楽曲は、「初音ミクの調教具合が甘い」なんて批判されることがあります。
しかし、僕はそれにも異を唱えたいと思います。
初音ミクがなんで調教されている方がいいのかって、その方が「人間っぽい」からです。人間では恋する乙女の味が出にくいってのはさっき記述した通りですね。
あと、ryoさんの楽曲に関しても、これはね、人間が歌うように作ってないと思います。
というかぶっちゃけ、歌おうと思っても歌いづらいです。
早いテンポで、メロディーラインが動きまくるのが一つ。
前述の通り、歌詞が小節で区切られていないので覚えにくいのが一つ。
そして、一曲の中で使われている最低音と最高音の音域の差が激しすぎるのが一つ。セリーヌ・ディオンが20人居たとしても2人か3人は歌えないで絶望してパチンコ屋にでも行きそうなレベルです。
「息継ぎ」を全く考慮してなさそうな所もポイントです。実際に歌ってみると解ります。きっとエベレストの頂上あたりに行けばエンヤだったとしてもろくに歌えないでしょう。(そりゃそうだ)
この楽曲群が想定しているのは、ボーカルではないんです。「初音ミク」というパートなんです。そのためか、楽曲中でも、突如あり得ないビブラートをかけてみたりということを容易にしてます。たぶん意図的じゃないかな。
しかしニューオーダーの「ブルーマンデー」が、「人間には再現不可能なリズムパターン」で全世界を熱狂させたように、人間に近づけるばかりがボーカロイドの目指す先じゃないと思うな。
ま、とはいえこのアルバムには普通に歌えそうな曲も入ってたりはするんで、さじ加減でしょうが。


そんなこんだでsupercell feat.初音ミクの「supercell」、ポップなんでずっと聴いてられます。最初はちょっとニコニコ動画版に比べて低音が足りないかな、とか思ったけど、プロのミックスって、やっぱり長時間聴き続けても苦にならないという点でやっぱりプロの仕事ですね。
初回盤に付くイラスト集も含めハイクオリティで、ポップカルチャーの最先端がここにあるような気がします。オヌヌメ
個人的なお気に入り曲:「メルト」「くるくるまーくのすごいやつ」「ワールドイズマイン」

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