プシュケ／唐辺葉介

PSYCHE (プシュケ) (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

「スワソン」「キラキラ」の瀬戸なんとかさんが変名で書いた（状況判断から鑑みるに、ほぼクロと思う）ということで半径１クリック界隈で話題になった小説。確かに、文体やテーマなど、瀬戸口作品を主張するに申し分ない仕上がり。
なんだけど……んー、ちょっと信者の方に（結構僕の周りにもいる）総スカンを食うことを覚悟して言っちゃいますが、……正直僕にとってはイマイチの作品だったですね……。あごめんなさい石投げないで、いやごめんなさいまだキラキラしかクリアしてないのに何言ってるんだって話ですよね。
緩やかに侵食してくる狂気がテーマの話なんですが、これは多分キラキラの某シーンに通ずるテーマでもありまして。
で、僕がそのシーンが好きだったのはその後の「残酷なことに」云々という、あの一文にすごいカタルシスと衝撃があったからなので、この構成はどうも、手放しで誉める気にならないというか――それになにしろこのお話、「最後まで行き着いてない」感じがしてしまったんですね。狂気というテーマで引き合いに出しますが、これがもし「雫」だったら「トースターのコンセントが抜けてるじゃないか」というラストにカタルシスがあるんです。あれは「行き着いた」先のヤバイものを垣間見ちゃってる感じがするんで、手放しに好きになれるんです。
というか、気が狂ってしまう女の子を俯瞰する感覚とか、「雫」とある程度共通する要素があるよな。うん。

だから、やるなら徹底的に後半の幻想描写を突き詰めるとか、そのぐらいやってくれればまだ違ったんですが、この作品を、ライトノベルでなく、幻想文学の系譜に入れるとしたら、個人的にはまだあれでも足りない。
しかし、描写とか、筆力は確かなものがありますし、オビにもなってますが「この家は気持ち悪いな。きみの内臓のなかにいるみたいだ」とか、かなりツボにくる台詞も多々あり、瀬戸なんとかさん改め唐なんとかさんの今後の活躍は、これからもリアルタイムで追っていきたいと思わせる作品でした。まずは、その「場」が新たに舞い込んできたということで、感謝。