剿滅少女詩人

「そうだ。僕は君が感じているのと同じ不安を感じていたかったんだ。だから少しの意地悪をするよ、それが少しの情愛だと疑わずにするよ」
汽車の煙が溶解して星空を灰色に染め上げた夜、男は美酒に耽溺するような恍惚を持って陵辱を為した。


面識の無い場所で、ぱきりという音が、その模様を剽掠する空気を暖めて宙空に苛立ちを舞わせ、酷薄な言節を傍観した少女は小さな玉虫を一匹践踏した。ぐちゃりと緑色の液汁が沓の裏に滲透し、べたべたと処女の心を蹂躙する。


腹立たしくも、脈打つ胸腔が彼女の足を止めずに憤懣を踏み抜かせる。
商店街の橙を撃ち放つ街燈が加速していた。人気の無いコンクリートに、猫の屍体を片付けた後の厭な臭気を感じた。血と、押し付けられた車輪のゴムが黒い染みの絵具を伸ばし、軌跡を描いている。
気管に風船ガムを詰められたような窒息感を感じる。
ぎりぎりと爪を立て左腕を扼腕する少女の高潔で凛然な精神は19世紀を生くる象徴詩人の韻律で疵を刻むようでもあり、また無意識に尊厳を貶める浮浪者のように自罰を孕んだ。


足音が止まる。


潺湲と溢れる涙を、その理由を、少女は炙り出したかった。自由律詩であり、箴言であり、全ての美貌が重なる開花を持って証明すべきだと思った。


盈満の杯が溢れるように、踵を返し、少女は憎悪を流露せんと懐を尖らせ伸ばし始める。
その距離を超え、あの男の心臓を壊死させるまでは届く。
殺戮を。血讐を。敷衍する少女性を実夢とする為に再び高みから弾ませた。


不実は勦滅を持って仇為されるべきである。