朝4時、眠る前の朦朧とした頭で書いたエントリが
11時にはかちぼしさんからリンクもらってました。
http://d.hatena.ne.jp/y_kamishiro/20061020
はわわ、なんて仕事の速さ! ありがとうございます。
ええと、喋り足らない所もあったので、2,3追記をしたく思います。
チャック・パラニュークと田中ロミオの関係について。
田中ロミオとチャック・パラニュークが似ているという説を挙げましたが、
僕が最もそれを確信したのは、パラニューク2作目の「サバイバー」という小説においてです。
この作品と、「CROSS†CHANNEL」には、注目すべきいくつかの共通点が見受けられます。
ということで、今回は「サバイバー」という小説と「CROSS†CHANNEL」という物語について比較しながら少し語ってみたいと思います。
*以下の評論ではどうしても「サバイバー」「CROSS†CHANNEL」の内容、ラストについて触れてしまっています。作品を未プレイ、未読の方はネタバレ承知の上でお読みください。
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- ここからネタバレ---
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「サバイバー」は冒頭と末尾が主人公の独白となっている。
だが、正確に言えば独白、ではない。独白、とは独り言であり、誰も居ない虚空に言葉を吐き捨てることだ。
主人公のテンダー・ブランソンは、無人となって墜落しつつある飛行機のブラックボックスに向かって独り、己の半生を滔滔と語り掛ける。誰が聞くのかは解らない。恐らく誰かが聞くのだろう。
「紆余曲折を経て最終的に孤独になった主人公が、誰かに届くことを願って姿の見えない不特定他者へ通信する」、
これは「CROSS†CHANNEL」の終盤と全く同じ構造である。
ただ違いと言えば、黒須太一は我々に「生きてください」と積極的に希望を語り、それが我々の感動を呼ぶが、テンダーブランソンの通信には「また来週」というような希望の類の言葉は一切出てこない。当然である。
それは、彼の遺言なのだから。
何故こんな差異が生まれてしまったのか、と言えば、それは一つしかない。
「人になりたい」と切望していた黒須太一は、何だかんだ言って超人であった。独りでも生きていける強さを持っていた。しかし、テンダー・ブランソンは、完膚なきまでに弱い人間のままだったのだ。従って、今際の際にさえ、不特定の他者に向かって、テンダー・ブランソンはただ如何に自分が人生を間違えてきたか、語り続ける他無い。
その独白の、ラスト周辺を少し抜粋しよう。この作品で、最も感動した記述である。僕は泣いてしまった。
『 テスト、テスト。1、2、3。
というわけで、これが僕の告白だ。
これが僕の祈りだ。
僕の身の上話。無意味な言葉の羅列。
聞いてくれ。見てくれ。僕を忘れないでくれ。
最愛のどじ野郎。
できそこないのメシア。
恋人志願。神の御許に召されし魂。
僕はここに閉じこめられている。ノーズダイブに、僕の人生に、オーストラリア奥地の黄色い大地がみるみる迫るジェット旅客機のコクピットに。
変えたいのに変えられないものは数え切れないくらいある。』―――チャック・パラニューク『サバイバー』池田真紀子訳 ハヤカワ文庫
そして、上述の独白で物語を閉じた後に、文庫版では解説が付き、そこでパラニュークはこう切り出す。
「もしまだ気づいてないなら言っておくが、俺の小説は全部、孤独な人間が他人とどうにかしてつながりあおうとする話だ」
その表現にハッとした。麻姑掻痒の感に背筋が震えた。
それこそまさに、ロミオ作品全てにも共通する命題なのではないか。
「孤独な人間が他人とどうにかしてつながりあおうとする話」
今思えば、「家族計画」も「CROSS†CHANNEL」も「最果てのイマ」もこの一行で全て説明が付くのではないか。そして、僕がロミオ作品をこの上なく愛する理由も。
「サバイバー」と「CROSS†CHANNEL」の共通点は一応他にもある。
人間になる事が出来ないと思い悩む彼らは、人間の命を何とも思わない。というか、思えない。
テンダー・ブランソンはテレフォンを掛けてくる自殺志願者たちに向かってこう吐きかける。「死ぬといい」
黒須太一も同じくある人物に吐きかける。「どうして今すぐにでも死なないんだ?」
そして二人が突き放した相手は、忠告通り自らの命を絶つ。
また、「サバイバー」は、カルト教団の生き残りが、一人、二人と自殺していき、主人公が最後の一人になる、というそういう小説である。自分の世界からの人間の消失。最後の一人。その孤独感は、「CROSS†CHANNEL」に似ていると言えなくもない。
……だが、まあそれらの事象は些末な事であろう。
「孤独な人間が他人とどうにかしてつながりあおうとする話」であるという、
それだけでその作品はロミオ的でもパラニューク的でもあり、
そしてそういう話であるが故に、僕は彼らの作品を満腔の思いで心酔するのだ。
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